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CONCEPT

Synthesis of different approaches makes something unique.



体内環境の体外再構築への挑戦

 
私たちのからだは、たった一つの受精卵から始まり、肺・腎臓・腸など固有の形態パターンへと成長していきます。そのどれもが非常に複雑な形をしているにも関わらず、からだの中で再現よく作ることができるのは、細胞が遺伝子によって規定されているからだけではなく、集合体として細胞がお互いにコミュニケーションを取り合って、場を高精度に作り上げています。そのため、からだの外でこの複雑な臓器を作り上げるためには、どのような環境でどういった条件が必須であるか、体外環境の設計とそれを体外の微小な環境で実現するための制御技術が非常に重要であると我々は考えています。設計論を構築するためには、細胞が行っている周囲環境とのコミュニケーションを理解し、多細胞としての集団の秩序を明らかにすることが必須となってきます。
そこで、我々の研究室では工学・生物・情報など複合技術を駆使して、1)培養環境を時空間的制御・計測可能な実験プラットフォームの構築を行い、2)細胞の自律形成システムを数理モデルで表現し理解した上で、3)場を時空間的に制御することで細胞に望みの方向へ成長させるための方法論の確立を目指して研究を進めています。

 
 
 

培養環境の時空間制御計測技術

 

生体内で行われる発生プロセスは,細胞間コミュニケーションを通して局所的な場の形成がダイナミックに行われることで,前後左右上下といった軸方向を決定し,発達方向に指向性が生まれます.一方,現在の細胞培養実験のほとんどはピペット操作により行われ,培地内の形態因子は場全体に拡がり細胞全体に一様に行きわたるため,局所的な場の形成が難しい.そこで我々は,三次元の培養空間をどのようにダイナミックに制御していくのか,フォトリソグラフィーやバイオプリンター,マイクロ流体チップなど工学手法駆使し,三次元空間における細胞やECM,細胞周囲の形態形成因子の濃度勾配,といった場の制御手法確立に向けて実験系の構築を進めてます.
また,環境の制御ができてもそれを実験結果を計測する手立てがなければ,解析をすることはできません.しかしオルガノイドのようにサンプルサイズがミリメートルと大きくなってくると,二光子やライトシートのような高価な顕微鏡を用いていもイメージングは容易ではありません.そこで我々はデバイスの観点からもマルチスケールな計測技術の開発を目指して進めています.これまでに立体的な細胞組織を多面から観察可能な培養Cubeの開発しました.培養に必要な基質の周りに,アガロースゲルの壁で立方体に覆うことにより,培養中のサンプルを基質ごと移動・回転させることを可能とし,サンプルを複数の面からスキャニングすることで,低倍レンズを用いても高い解像度でイメージングを行うことが可能です.Cube自体は非常に構造がシンプルでオルガノイドの扱いを飛躍的に簡単にできるため,多くの工学技術と組み合わせて機能を拡張することが期待でき、現在細胞や周囲環境の時空間制御を行い、体軸情報を持ったオルガノイド形成技術開発や、流体チップとオルガノイドを結合したOrgan-on-a-Chipの開発を進めています.

細胞から組織パターンへの自律形成メカニズム解析

 

細胞が何かしらのルールに従って行動していることは明らかであっても,ディッシュに一様に培養されていると、細胞サイズでのちょっとした違いに引っ張られて細胞の状態変化は発生するため、そのルールに気づかないことが多くなってしまいます.さらに培養環境のバラつきは細胞集団の成長過程で加速的に大きくなり,結果の再現性を大きく劣化させる要因にもなります.一方,培養環境を制御することにより,このバラつきを抑え環境に摂動を与えることで細胞が持つルールをあぶりだすことも可能だと私たちは考えています.例えば気管支上皮細胞の集団をディッシュ上で特定の条件下で三角形に配置すると,必ず細胞は三角形の頂点方向に動き始め,円形に配置すると全体が回転しますというユニークな動き方をするようになります.このことは集団の境界条件によって細胞の移動方向が変化しています.では境界条件の変化によって何が変わって細胞行動に影響を与えるのか.突き詰めていくことで細胞のルールをより詳細に理解することができると考えています.